星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

何時も過ごす部屋には、
すでに今日の夕ご飯がテーブルに用意されている。


「本日は、こちらの部屋にお食事をご用意させて頂きました。
 何かございましたら、フロントにご連絡ください」


そう言って、総支配人は部屋を出ていく。


カチャリと音を立てて閉まるドアが、
二人きりに慣れたのだと安堵させてくれる。



「百花ちゃん、緊張した?」

「はいっ。
 託実さんとこちらにお邪魔するようになって1ヶ月ですけど、
 やっぱり緊張してしまいますね」

「百花ちゃんは、喜多川会長と一緒に行動されることが多いなら
 こういうの慣れてると思ってたけど?」

「慣れるなんてとんでもないです。
 何時も、緊張のしどおしですよ」

「さっ、上着掛けて食事にしようか?」


そう言うとクローゼットにジャケットを片付けて、
シャツを少し緩める託実。

私も寒くなる夜に備えて、1枚羽織っていたカーディガンをハンガーに通して
椅子へと着席した。



「お腹すいたよね。
 早く食べようか?」


託実さんの一言で食事を始める私たち。


フォークとナイフを使って、美味しい料理を頂きながらも
私の脳裏には『託実さんの大切な人』のことばかり。




「託実さん……車の中で、私はの大切な人。
 お姉ちゃんのことは話しましたよね。

 良かったら……教えてください。
 あの場所で眠ってる、託実さんの大切な人」


凄く勇気が行った言葉を……何とか紡ぎだす。



「そうだね……。
 
 百花ちゃんの話を聞いたら、
 俺も話さないとフェアーじゃないよね。

 あの場所に眠ってるのは、
 俺をAnsyalに導いてくれた存在って言うのかな。

 俺、ずっと陸上部だったんだよ。
 だけど足を手術して、陸上が出来なくなって挫折した。

 その時に支えてくれたのが、あの場所で眠ってる人。

 心臓の病気を抱えながら、毎日を必死に生きてた。
 
 そんな生きてた姿勢に、
 気が付いたらほっとけなくなって惹かれてた俺が居たんだ。

 彼女が居たから、今の俺は陸上一筋の俺から
 この音楽に……Ansyalに繋がる夢を貰った」


託実はそうやってゆっくりと語り終えると、
凄く寂しそうな表情を見せた。


あっ……この表情、
時折、Ansyalのアルバムのジャケットや、アー写で見せる表情だ……。



「その人は……託実さんの想い人……なんですね」



溢れそうになる涙を堪えながら、
震える声でようやく口に出来た言葉。






その人は託実にとっての光の存在だった?

だったら私は……?





私は託実にとって、
どんな存在なの?




あの場所に眠り続ける人が、
託実が想い続ける存在なら、今の私は?


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