星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


次に唯香と逢ったのはピアノコンクール当日。



10時になっても待ち合わせにしていた駅に姿を見せない唯香に、
痺れを切らしたようにマンションへと押しかける。


インターホンを押して呼び出した唯香は、
まだパジャマ姿のままだった。



「もう、唯香?
 何してんのよ、約束の時間とっくに過ぎてるよ」

「うん……知ってる。
 でも……私、今更……先生できないから」

「何言ってんのよ。
 今更でも、何でも、アンタがあの子の先生には違いないでしょ。

 ほらっ」


そう言いながら座り込んだ唯香を立ち上がらせて、
勝手知ったる親友のクローゼットを一気にら開いて
めぼしい洋服を引っ張り出す。


「ほらっ、これ着る。
 これだったら、華やかだけど落ち着いて見える大人な装いでしょ」


手渡されるままに、
唯香は諦めたように着替えを始める。


そのままな唯香のメイク道具を手に、
この洋服に似合うメイクを考えていく。




一人じゃ、全くやる気にならない唯香を
半ば強引に、ヘアセットとメイクまで終えると
引っ張るようにして、車内に押し込んだ。



会場の駐車場についた頃には、すでにお昼が近づいていた。


後、1時間もしたら始まっちゃうじゃない。
中学生以上の部。



引っ張りながら、会場内に入って
そのまま宮向井君の名前と、唯香の名前を告げて
自分自身の証明書を見せる。


関係者入口でのチェックを終えて、
楽屋に続く廊下へと移動するも、
唯香は楽屋が見えるのに入ろうとしなかった。



「唯香、ほらっ。
 ここまで来たんだから」


強引に引っ張ってでも連れて入ろうとした最中、
楽屋のドアが開いて、託実さんが姿を見せた。


目があった途端に、微笑んでくれる託実。


本当はすぐにでも飛んでいきたいけど、
今はぐっとこらえて、唯香を気遣う。


「こんにちは。
 唯香ちゃん、百花ちゃん。

 雪貴、奥で緊張してるよ。
 入りにくいなら、呼んで来ようか?」



私たちの様子を察してくれたのか、
託実さんから話しかけてくれるも、
唯香は今も動こうとしない。




もう、唯香さっさと観念しなさい。




「雪貴、唯香さん来てくれたよ」


そう言いだしかけた頃、
託実さんは楽屋のドアを開けて、中へと声をかけた。


中から雪貴君の声が聴こえる。
< 119 / 253 >

この作品をシェア

pagetop