星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


聖夜は、俺たちAnsyalにとっては
かけがえのない日。


だけど……運命の日は、
いつも突然にやってくる。


そう、あの日と同じように。



「託実、隆雪が急変した。今、何処?」


車内で受けた一本の裕真兄さんからの電話。

その電話が理佳の自宅でもあった場所へと向かっていた
俺の車を止めた。

「病院まで20分で行きます」

それだけ伝えると慌てて電話を切り、
方向を変えてアクセルを踏み込んだ。


いつかは来ると思ってた。


隆雪が倒れたあの日から。


雪貴……、慌てて車内から携帯を
発信させようとした時、雪貴の方から着信が入る。


運転しながらハンドフリーで受話すると、
空白の時間だけが流れる。


「どうした、雪貴?」


パニックになって現実を受け付けられないのだと
感じながら、いつものように平静を装う。


「……あっ、兄貴が……兄貴が……」


相変わらず言葉は繋がらない。


「雪貴?隆雪がどうした?」

訳を知りながらもアイツが自分の言葉で話すのを待ち続ける。


「すいません。取り乱しました。
 
 さっき、兄貴の主治医から電話が入って兄貴、急変しました。
 俺も今から、病院に向かいます。
 託実さん、メンバーと事務所に伝えて貰えますか?」

「わかった。
 雪貴、お前は大丈夫か?」


今、知ったように電話では対応しつつ、
俺自身の心が冷えていくのを自ら感じ取りながら、
雪貴が頷いたのを受ける。


「俺もすぐに病院に向かう」


義務的になりそうなやりとりをやっとの思いで、
乗り切ってメンバーと会社、マネージャーに
車内から電話を次々と入れていく。



一人、また一人と電話を入れるたびに
俺自身の自我が少しずつ閉じ込められて
Ansyalのリーダーとしての俺自身が覚醒していく。


ただひたすらにアクセルを踏み続けて辿り着いた
通いなれた病院。


俺が病室に到着した時には、
祈が隆雪のベッドサイドに頭を垂れて力なく座ってる。

その隣には、唯香ちゃんがベッドサイド、
雪貴を支えるように優しく立ってた。

隆雪の眠るベッドの片隅、うずくまるように座り込んで
ただ視線だけを向ける実夜。

実夜を支えるように体を摩る美加。


「悪い、遅なった」


仕事先から駆けつけてきたであろう、
スーツ姿の十夜に憲。


隆雪と雪貴の両親と共に会話をしながら、
病室へと歩いてくるのは、宝珠姉さんと高臣会長。


隆雪を慕う関係者が、病室に集まると
ゆっくりと閉じられる扉。


ふいに雪貴が何かを決意したように、
自身を責め続けるように唇を噛みしめて
耐えるように唯香ちゃんを見つめ続けているのを感じる。
< 123 / 253 >

この作品をシェア

pagetop