星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

それが今の俺に出来る唯一だから。


音楽葬にすることを快く快諾してくれた
おじさんたちの思いにも報いたいから。


Ansyal ラスト LIVE。


隆雪の通夜・告別式の中で行われた、
ファイナルメッセージ。


Ansyalと共に生き続けた
隆雪は……天国の扉をゆっくりと開いていった。




全てが終わった俺に残されたものは
空虚感。


理佳を失った日にも似た空虚な時間だけは
不気味なほどに静かに俺自身を包み込んでいた。



……隆雪……。
俺はこの先、どうしていくんだろうな?



自宅に帰る気になれず、一人スタジオに篭る。


何かをするわけでもなく隆雪と長い時間を過ごした
その場所に……。



ふいに、ガチャっと重たい扉が外から開かれる。



「やっぱりここだったか。
 ……託実……、ほらっ差し入れ。

 オレはAnsyal以外でボーカルをとる気はないよ。
 だけど今は待ち続ける。

 託実や、雪貴たちが納得行くまで。
 だから今はゆっくり眠りな」


カクテルグラスに注がれたホワイトブルーの液体。

十夜にグラスを手渡され促されるままに
口を近づける。

レモン風味の涙にも似た味わいの
テキーラカクテル。


そのカクテルに引きづられるように
意識を遠のかせた。



…………。








半ばアルコールの力を借りて、
気絶するように眠った俺が目覚めたのは亀城の自宅。

久しく使われることのなかった
自分の部屋のベッドで足を投げだす。

ベッドから起き上がって部屋を出ると、
そこには裕真兄さんが姿を見せた。


「親父たちは?」

「宗成叔父さんと、薫子叔母さんは仕事。
 鍵は叔父さんに借りてきたんだけどね。
 二人とも、託実のこと心配してたよ」

「十夜に助けて貰ったからな。
 少し眠れたらスッキリしたよ」

「雪貴は?」



気になってたことを問いかける。



「雪貴は入院させたよ。
 唯香さんのことも、兄さんが面倒見てる。

 だから託実は気にしなくていいから、
 今は自分自身と向き合わないとね」


そう言うと裕真兄さんは、亀城の家を後にした。


着替えて向かうのは事務所。
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