星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「これはね、百花の成人式の為にお父さんが用意してくれたものよ。
 百花は、お祖父ちゃんの振袖で、成人式に出掛けたわね。
 今日くらいは、百花に袖を通してほしくて持って来てしまったの」

そう言ってお母さんが鞄から広げたのは、
青を基調にした、雅やかな振袖。

家族三人が待つ中、私は一人振袖を手にして奥の部屋へと向かった。

少しずつ体力が回復してるとはいえ、
内心は、この後の着物を着て過ごすであろう時間に不安を覚える。


「喜多川さま、総帥より伺っております。
 極力、喜多川さまのお体の負担にならないようにっと」

そう言って三人のスタッフは、私の体に気を使いながら
ヘアメイク・着付け・メイクを済ませて、家族の元へと案内した。

ウィッグを使って、ヘアメイクの時間を短縮。
振袖の方も、ポイントは抑えながら苦しくないように着付け終わると
最後のメイクで、ややトーンを明るくして華やかに演出。


「似合うかな?」

呟いた言葉に、お父さんとお母さんは嬉しそうに微笑んだ。


「似合っておるぞ。儂が作ったのも良かったが、
 百花はこの振袖も似合うんじゃな。

 さて、案内して貰おうかの」

お祖父ちゃんの言葉に、スタッフが電話をコールすると
すぐに総支配人が姿を見せて、エレベーターで上の階へと誘導していく。


通された部屋には、何度か顔をかわしたことがある顔ぶれが並び、
その中に託実の姿を見つける。


託実の親族が並ぶ前には、
何やら沢山の贈り物らしき存在が並んでいる。


対面する向かい側に、お祖父ちゃんたちは着席し
私もゆっくりと腰をおろした。


「この度は百花さまと息子、託実とのご縁談をご了承くださいまして有難うございます。
 本日はお日柄もよく、婚約の印として結納の数々をご持参いたしました。
 幾久しくお納めください」


厳かな雰囲気で向上が述べられて、
宗成先生の声が室内に響く。


同時に差し出された目録をお祖父ちゃんが確認していく。


「結構な結納の品々を有難うございます。幾久しくお受けいたします」

お祖父ちゃんのお辞儀を挨拶に、私たちも一斉にお辞儀を返す。

「結納の受書でございます。どうぞお改めください」

今度はお祖父ちゃんが何かを渡す。


何もわからないまま、
結納と呼ばれる儀式が順調に済んでいるのだけは理解できた。


「本日はどうも有難うございました。おかげさまで無事に結納をお納めすることが出来ました。
 今後とも幾久しく宜しくお願いします」

託実側のお父さんの向上に、お祖父ちゃんが最後に言葉を告げるとお互いの一族が一斉にお辞儀をして
緊張の中の儀式は終わった。


その後は、ホテルのスタッフによって食事と座布団が運び込まれる。

一気に和やかな雰囲気になり、そのまま二時間ほどの会食の後
私たちはホテルを離れた。
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