星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



駐車場に止めた愛車に乗り込んで、
私は来た道をもう一度辿るように職場の方へと向かった。



画廊の職員駐車場に車を停めると、
近くの喫茶店で少し早目のランチを食べて出社する。




「おはようございます。
 お疲れ様です」



従業員の入り口から、
顔を出すと祖父の片腕を長年続けている相本さんが
優しくと迎え入れてくれる。



「百花ちゃん、おはよう。
 予定より一時間ほど早いわよ。

 今日は14時頃から、
 次の移動Galleryの打ち合わせが入っているの。

 どの絵を持っていくかは、まだ検討中だから先方に提案する絵も
 百花ちゃんの一押しを選んでおいてね。

 
 奥の教室には、何時もの新人さんたちが集まって来てて
 会長はそちらにいらっしゃるから、百花ちゃんも勉強してきなさい。

 櫻柳会長から大きなチャンスを頂いたんだもの」


「はい。
 じゃあ、Gallery用の作品を私なりに選別して
 資料を用意した後に、教室に行かせて頂きますね」 




そう言うとロッカールームで着替えを済ませて、
制服に袖を通す。


画廊の品格を落とさないように、
高級感ある黒を基調にした制服。

汚れがないことを確認して、
作品保管庫になる部屋へと向かうと、
お披露目前の絵画や、Gallery用に梱包された絵画の合間に
体を潜めながら倉庫作業をしていく。

何点か私の一押しを選んで、選考理由も書きこむと
相本さんに用紙を手渡して、祖父のいる教室へと顔を出した。



祖父を慕ってくれる新人の画家さんたちと並んで、
話を聞きながら、用意されたキャンパンに筆を運んでいく
そんな景色を私も共有する。


筆の選び方、使い方などを、
教室で技術を盗み見て勉強。


教室での知識吸収と、画廊での接客。


次回のGalleryの打ち合わせを終えて、
今週末の、別のGalleryに展示予定の作品を
送り出した後、私は相本さんの許可をもらって再び、教室へと顔を出した。



今度は、制服のジャケットを脱いで
ブラウス上に、ハンドメイドの汚れ防止スモックを着て
イーゼルに置かれたキャンパスの前に向かう。


ゆっくりと真っ白い空間に描いていくのは、
降り注ぐような柔らかい羽根。

羽根の下に広がっていくのは、
深い海に波紋。

上の方から柔らかく差し込むのは、
太陽の光? 月の光?




そんなイメージで描き上げた下絵に、
ゆっくりと色をのせていく。




脳内に流れるのは、Ansyalのサウンド。

親友、唯香が一番大好きな『天の調べ』


海に姫がる波紋に、
五線譜を重ねても綺麗かもしれない。


展覧会用には出来ないけど、久しぶりに思いついた閃きに、
思うままに色を乗せていく。

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