星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



俺自身も、機材車の手配や、
雪貴へのセトリの送信などの雑務を終えて
自身の練習の為にスタジオへと、サンダーバードと共に戻った。




個人練習の後は、霞ヶ丘に移動して
今日のステージの打ち合わせをスタッフたちとこなして、
すでに会場入りしてリハを始めている後輩バンドたちの演奏を少し聴き、
雪貴以外のスタジオリハの時間を迎えた。

リハーサルを終えた後は、
事務所スタッフの手を借りて、機材を全てトラックに搬入。


ローディーの一輝(いつき)たちに預ける。
次に俺たちが霞ヶ丘で合流するのは19時頃。



トラックを送り出した俺はスタジオを後にして、
隆雪への贈り物を求めて、母に教えて貰った画廊へと足を運んだ。



人間国宝、喜多川昇山(きたがわ しょうざん)が
代表を務める画廊。


敷居が高そうな雰囲気のその場所に、
亀城の名を告げて、受付を済ませると
俺の母方の叔母の存在・綾音姫龍(あやね きりゅう)を知る
その人は、丁寧に対応してくれた。

その綾音姫龍の生家が、今の俺の姓。
亀城家。


俺の母のことも良く知るその人との会話で、
少し場違いかも知れない空気が和らいだ頃、
思いがけない子が現れた。



突然現れたのは、何時もLIVEハウスで
親友の唯香ちゃんと一緒にドセンに踏みとどまる百花ちゃん。



マジかよ。



嬉しさの湧き上がる心と同時に、
罪悪感が花を咲かせるどうにもならない俺自身。



流されるように、お茶を頂いて
奥から持ち出されてきた百花ちゃんが描いた絵画を
買い求め、気が付いた時には
今日のシークレットのチケットを二枚手渡してた。



百花ちゃんと、もう一人の親友の為に。



放心状態の百花ちゃんをその場に残して
絵の配達手続きを終えると、
俺は今日の会場へと向かった。



19時前、到着した会場周辺には
すでにいろんなバンドのファンたちによって囲まれている。

対バン形式のLIVEの場合は、
暗黙の了解でそれぞれのファン同士が、
入れ替わりながら空間を譲り合う。


17時には開場。

17時半から開演が始まってるLIVEハウスから音が漏れる、
後輩バンドたちのサウンドを耳にしながら、裏口から機材車へと向かった。



「託実さん今、一輝たちと機材おろしたばかりです」


そう言ってメンバー内、最初に会場入りした祈が告げる。


「悪かったな祈。
 遅くなった」

「いえ、僕は構いませんよ。
 今日、演奏してるバンドの後輩たちも良く知ってるんで
 その子たちに早く来てほしいって頼まれてたんです」

会場内の楽屋には、
(Ansyal様)と書かれた張り紙。


指定されたその部屋に入って、
手荷物を置くと、俺はLIVEハウスの関係者に
挨拶に向かう。


「十夜さん、憲さん到着しました」


関係者への挨拶から戻ってくると、
一輝が、二人が到着したことを告げた。

後は雪貴だけか……。


「託実、一輝借りるぞ。
 ドラムセット、ステージの袖でセッティングする。
 手の空いてるやつ、手伝ってくれ」


憲が声をかけると、それぞれに手が空いたスタッフは
憲の元へ向かっていく。


朝の御曹司なスーツ姿から一変した、
十夜は楽屋に籠って、ウォームを始めていく。

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