星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】




お祖父ちゃんのその一言に、私の思考は真っ白。
フリーズ状態で固まってしまった私に、お祖父ちゃんは更に言葉を続けた。



「今回の展覧会のスポンサーの、
 櫻柳【さくらやぎ】の会長が学生時代の百花の絵を知っていてね、
 声をかけてくださったんだよ。

 櫻柳会長と言えば、御子息が神前悧羅校の昂燿【こうよう】校に通われていたはずだね。
 御子息が神前悧羅の理事会メンバーでもあられるから、
 百花の絵も見て貰える機会があったんだろうね。

 大丈夫。
 百花は、私の自慢の孫だよ。

 私生活は勿論、芸術家と言う同じ枠の世界においても
 喜多川昇山の孫として恥じぬ。
 
 お前は私の宝だ」



電話口で綴られるお祖父ちゃんの声が、
私の中にゆっくりと浸透して、ゆっくりと体の緊張がほぐれていく。

「うん……、有難う。
 お祖父ちゃんの名に恥じないように頑張ってみる」

「あぁ。
 百花、今は6時だから1時間遅く出社しなさい。
 
 どうせ寝ていないんだろう。
 10時に画廊で。

 目の下に隈を作りながら、
 お客様の前に立つような仕事はさせたくない。

 仮眠して出社しなさい」


一方的に告げると、お祖父ちゃんはすぐに電話を切った。


ちゃんと自己管理しなきゃ。

私はお祖父ちゃんの孫だけど、ちゃんとした社会人で
スタッフの一員だもの。

だけどそうやってお祖父ちゃんに言われた手前、
8時半に出社するのはやっぱり今日はやめておこう。

お祖父ちゃんにそうやって言わせてしまった自分自身に反省しながら、
更に3時間、9時までの睡眠を決め込む。


今度はソファーではなくちゃんとベッドで。

ルームウェアーのままベッドに潜り込むと、
Ansyalのサウンドに抱かれながら、
天井や壁にパネルに入れて飾ってある特大ポスターを見つめる。


ベーシストの託実の姿を指先でなぞるように触れて、
私はゆっくりと夢の中へと落ちていった。





Ansyalのベーシスト・託実。

あらゆるネットの情報網で、
私が知ることが出来たのは、彼の本名。


亀城託実【きじょう たくみ】と言うのが
彼の本名なのだと言うこと。


Ansyal。

ベースの託実。
ギターのTAKAと祈【いのり】。
ドラムの憲【のり】。
そしてボーカルの十夜【とうや】

5人編成のV系【ヴィジュアル系】バンド。


真っ白な天使のような、何処か神話の世界から飛び出してきそうな出で立ちで
降誕した……彼らの音楽は天上【そら】から降り注ぐ
そんな優しさに満ちたサウンド。


そんな5人の中で、私の心を擽った【くすぐった】のは
ベーシストである彼。


他の4人を引きたてるように、
腰を落としながら、安定したリズムを刻み続ける
縁の下の力持ち。


5人のステージを見つめている時に感じるのは、
託実の存在が、
メンバーのお母さん的役割になってるのかなーっとか。

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