星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】




ずっと夢の中の住人だって思ってた
託実が……今日は、凄く近くに感じてしまったから。



託実が私のテリトリーに入ってきたから。



ねぇ唯香、私どうしたのかな?


託実はステージの上の人で私の憧れ。


好きって気持ちが疑似恋愛に近いもので、
言うなれば……現存する人物に恋をしてるわけじゃなくて
手を伸ばしても届かない。



だからこそ強く焦がれて、
求めることが出来る。



私と託実の関係はファンとアーティスト。
託実はステージの上の人。




ファンに少しでも触れあえるようにって、
近いところまで降りてきてくれるけど、
だけど……遠い世界の存在。


それ以上、夢を見ることなんてなかったのに。






だけどこんなに心が揺さぶられてる。






そんなどうにも出来ない心を抱きしめながら、
夜が来て、朝を迎えるといつもの私の日常が始まる。




いつもと同じ日常のはずなのに、
シークレットライヴに行ったあの日から、
心が制御できなくて空回りの自分。





託実が私の作品を買ってくれたから……。



武装してない私にただ社会に交じって
仕事をしてる私に気が付いてくれたから。




そうやって強く思えただけで、
私の胸は張り裂けそうなくらいドキドキして
暴走してる。





そんなドキドキを一人で持て合わしながら、
時間だけが過ぎていった。




あの日に唯香と約束したカラオケもショッピングも、
あのバカが何度電話しても、電話に出ないから出来ないままに
一週間、二週間っと過ぎて月が変わり、六月を迎えた。


携帯のスケジュールを開いて
唯香と音信が繋がらなくなった時間を数える。



やっぱり……唯香に洗いざらい相談したい。
聞いてほしい。


あの日、あのシークレットライヴのチケットをくれたのは、
託実なんだよって、伝えたら唯香はどんな顔するだろう?


話したいことは沢山あるのに、
音信不通の時間って、寂しすぎる。


それが学生時代とは違う、
社会人と言う名の、大人の世界。


理屈ではわかってても、
心が付いていくには、まだ時間がかかるよ。



その日も携帯電話を引き寄せて、
リダイヤルから唯香の携帯を呼び出す。



それでもすぐに留守番電話に繋がってしまって、
私は溜息と同時に、通話を切る。



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