星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


託実が移動して一人に戻った病院内。


ここ数週間ずっとお見舞いの度に感じる
ストレスと向き合いながら、親友の病室へと向かう。


託実のことにしても、私の過去にしても、
悩み事を今の唯香には背負わせられない。


自分自身とうまく対峙することも出来ないまま、
時間だけは確実に過ぎていった。


願うのは親友が少しでも早く、
また元気に笑ってくれるようになってほしいから。

その気持ちには偽りがないから。
それだけを願って毎日お見舞いに顔を出す。


「唯香……」

ノックをして顔を出したら、
主治医の先生が顔を覗かせてるところだった。


「あっ、ごめん。
 私、もうちょっと外に居るよ」


慌てて病室を出ようとしたら、
柔らかな声がそれを遮る。


「大丈夫ですよ。
 では、後はお友達と楽しんでくださいね」


そう言うと、白衣の先生は静かに病室を出て行く。

二人だけになった病室。



階段から転落した後、脳震盪を起こしたらしく、
唯香の記憶の一部が欠落した。

今の唯香の中には、あんなに大好きだった
Ansyalの記憶は存在しない。


Ansyalの記憶も、あんなに大好きなTAKAの記憶も
抜け落ちてしまった唯香と会話を交わす。


だけどそれは唯香なんだけど、
私の良く知ってる唯香ではなくて……。

唯香の口から紡ぎだされるのは、
一度だけ私があったことのある、
LIVEの日に唯香をからかっていた教え子の名前。

その子の名前を何度も何度も呟き続ける。




唯香、アンタに何があったの?




何度も何度も問いただしたくなる心を
必死に抑えて唯香のペースにあわせて会話を続ける。


唯香は少し疲れてしまったのか、
ベッドに体を預けてウトウト。


「飲み物買ってくるよ」


そう紡いで病室を後にすると、
院内のコンビニで買い物を終えて病室に戻る。

病室の前、あの日、唯香を虐めてた教え子君。


「すいません」


病室のドアに手をかけようとした私に
声がかけられる。



「はい。

 あら、唯香に逢いに来てくれたの?」



少し疲労がたまり気味の私は、
何も考えずに普通に問い直す。


「唯ちゃんの教え子で、宮向井といいます」

「あぁ、君。
 LIVEハウスで唯香、苛めてた子だね」

「唯香、まだ寝てるんだ。

 って言うか、 唯香にも心配して来てくれるヤツ
 ちゃんといるんだ」

「唯ちゃんの友達が来てるなら今日は……俺、ここで。
 唯ちゃん、悲しませたくないんでコンクールの練習に戻ります」

病室の前、その教え子は丁寧に私にお辞儀をして
病室から立ち去っていく。

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