星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


話そうと思えば思うほど、涙と嗚咽が邪魔をする。


託実とは普通に、何事もないように話したいのに。
託実の前で、泣きたくなんてないのに。


なかなか涙が止まらない私でも託実はずっと電話を繋げてくれて、
私を気遣う声を掛け続けてくれる。

どうにか涙が止まった時、
託実は、9月25日のことについて触れた。


9月25日。

私が仕事を終える18時頃に、
託実が画廊まで迎えに来てくれる。



そんな夢のような約束を胸に、
私はその日まで、仕事を頑張った。



唯香のマンションを時折、訪ねるものの
唯香は不在の時が多い。


時折、電話で連絡がつくと「教え子のピアノの練習に忙しいのだ」と
話してくれた。



唯香も今は教師だもん。
お仕事大変だよね。



今も記憶が戻らない唯香を気にかけながらも、
傍にいつもいる教え子の少年の姿を思い出して
自分の時間を見つめる。


25日。

朝から落ち着かないまま仕事を何とかやり終えて、
18時の勤務終了と同時に、洗面所に駆け込む。


ビジネス用の髪型からおしゃれ用の髪型になおして、
手作りのコサージュを紙に結ぶ。


デート用に前日に買い物した勝負服に着替えて、
洗面所を出ると、
すでに迎えに来ていた託実がお祖父ちゃんと何かを会話していた。



「百花、亀城さんを待たせるんじゃないよ」


そう言って私を手招きするお祖父ちゃんに、
相本さんは「女の子は準備な時間がかかるものですわ。会長」っと言葉を続けた。


緊張しながら託実の前に歩いていく私。


「きっ……綺麗だね。百花ちゃん。
 LIVEに来ているゴシックの服も素敵だけど、
 そんな風に着こなす、百花ちゃんも可愛いね」


そう言いながら託実は私に微笑んだ。


「それでは、喜多川会長。
 百花さんをお借りします」


そう言ってお祖父ちゃんに丁寧に一礼をすると、
私も「行ってきます」とお祖父ちゃんと相本さんに伝えて
託実の後を追いかける。


今から乗るのは私の愛車じゃなくて、
託実の車。


何の車かは良くわからないけど、
外国の車っぽいスポーツカーが、託実のキーの反応して
ライトが点滅する。


助手席のドアに手をかけて、
エスコートするように私を座席へと誘導すると、
ドアを閉めて反対側の運転席へと体を滑らせた。
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