世界一遠距離恋愛
「…俺に万が一の事があったら、お前耐えらんねぇだろ?」
…予想に反して重くのしかかる言葉に心を痛めた。何て言葉を返してみようもない。透くんの言ってる事は正しいのだから。もし、透くんが手術中に死んでしまって、お医者さんがそれをあたしに伝えに来た所を想像すると…あたしは気を失うかもしれない。メンタルが極端に弱い自分を恨んだ。
「…厄介なのに惚れられちまったな、絵里子。」
透くんはあたしの頭に手を置いた。撫でると言うよりは掴まれている気がする。
「こんな小さくて純粋で無邪気なのにな…こんな俺、重たいだろ?」
「…バカにされた感満載なんだけど。」
「ごめんごめん、ちょっと大袈裟過ぎたかもしれねぇわ。…でもな、」
透くんは足元に生えていたタンポポを摘み取り、それを見つめていた。
「…そういう綺麗な心を持ってるお前の事を、きったねぇ心の俺は好きになっちまったんだよ。」
持っているタンポポをあたしの髪の毛を結んでいるヘアゴムに挟む。…この際だからもう写真でも何でも良いから好きなだけ撮ればいいじゃん!
「…死なない、って言ったよね?」
「ん?」
「俺は手術では死なないって言ってたじゃん?あたし、それをずっと信じて待ってるから。…手術の日もずっと成功を願ってるから。だから死ぬなんて…言わないで?」
「…ははっ、俺の言葉、素直に受け止めてくれてたんだな。やっぱりお前、すげぇわ。尚更惚れた。」
そう言うと、透くんは立ち上がった。
「まだこの世でやりたい事もたくさんあるし。手術なんてひょいひょいっと乗り越えて帰って来るから。」
「…待ってるから。」
こうして透くんは病院へ向かって行った。別れ際、特に気の利いた言葉をかけてあげる事が出来なかった。でもあたしは信じてる。そして…あたしに惚れてくれた貴方に、ちゃんと気持ちを伝えるから。
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