無理して笑うな
「大声であいさつすることだな。」
「………」
俺はぽかんと口を開けて三島さんならぬ、薫ちゃんを見た。
それを見て流星が腹を抱えて笑う。
「流星、静かにしろ。」
そう言う薫ちゃんも笑っていた。
「この事務所のルールなんだ。事務所のメンバーは入るときに全員に聞こえるぐらい大きな声で挨拶する。さっき流星がやってただろう?」
確かに、流星は事務所に入ってすぐに耳を塞ぎたくなるぐらい大声で「おっはよーございまーーす!」と言った。
「ほら、あんな感じだ。」
薫ちゃんが事務所の入り口を指差した。
この事務所はビルの6階にあり、エレベーターの扉が開いてすぐ事務所になっている。
「おはようございまーす!」
「ただいま戻りました!」
エレベーターの扉が開くなりそう言って入って来たのは2人の男性だった。
1人は茶髪で背が高い、たぶんタレントの1人だ。
「ただいま戻りました!」と言ったのは大きなカートを引いた事務の人のようだった。
「お、ハルじゃん。」
茶髪の男性を見て流星が口を開いた。
ハルと呼ばれた男性は俺を視界に入れると不思議そうに近づいてきた。
「何、薫ちゃん新入り?」
ハルはニコッと笑って言った。
「これから面接だ。悠斗、近藤 ハルだ。俺が抱えてるもう1人。」
「ああ、中村 悠斗君か。流星がよく言ってる。」
流星、お前はどれだけ俺のことを言いふらしてるんだ…
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。僕には敬語じゃなくていいよ。近藤 ハル、今年で20歳になる。流星と同じモデル専門。」
「ハルはスイスと日本のハーフなんだぜ!」
「まーね、だからこれ地毛なんだ。」
ハルは明るい茶髪を引っ張って言った。
「へぇ、だからかっこいいんだ。」
「お前、恥ずかしいことをサラッと言うなぁ。」
俺達は笑った。
ハルは今、大学で法律について勉強しながらモデルをやっていて、将来どちらでやっていこうか迷っているところらしい。
「ここの面接、超ユニークだけど頑張って合格しろよ。一緒に働こうぜ。」
ハルはニッと笑ってそう言ってくれた。