無理して笑うな
「おはようございます!!」
俺は出来る限り大きな声でそう言った。
喉はカラカラ。
もう何回こう言ったか、自分でも分からない。
「うーん、イマイチだなぁ。この事務所意外に広いから聞こえないかも。もう一度。」
薫ちゃんはイタズラに笑ってそう言う。
俺は視線を泳がせてもう1度薫ちゃんを見た。
薫ちゃんの目が細くなる。
「久しぶりだな、こんな骨のあるやつは。最後に新入りが決まってからもう半年経つけど、大抵のやつはこれで逃げ帰っちまうんだよなぁ。
芸能界はそんなに甘いところじゃないってことが…」
薫ちゃんは相変わらず喋り続ける。
流星とハルはそれぞれ仕事が入っているらしく、さっき事務所を出て行った。
俺は喋り続ける薫ちゃんを止めるように言った。
「おはようございます!」
「おー、よくなってきたよくなってきた。もう一息だ。」
頭がクラクラしてきた。
さっきから叫び続けているのもあるけど、周りの「もうやめてやったら?三島さん」と言う声が聞こえてくるのも原因の1つ。
こんなところで負けてられない。
このままでは唯に会うどころか芸能界に入ることすら出来ない。
唯や流星やハルがどんな厳しい世界で生きているのかを改めて実感した。
「おや?悠斗、もう終わりか?」
薫ちゃんが挑発的に笑った。
…プツン…
俺の中で何かが切れた。
俺は無意識のうちに思いっきり息を吸い込んでいた。
「おはようございます!!!」
俺はそう言ったあと、ふぅ…と息を吐いた。
口の中は血の味がする。
こんな大声を出したのは生まれてこのかた初めてだった。
自分自身に驚いた。
今までの、甘えた自分の限界を超えて生まれ変わったような心地がした。