無理して笑うな
「…驚いた。」
そう言ったのは拓真だった。
「一昨日唯ちゃんと再開したばっかりなのに、悠斗と偶然に会うと思わなかったよ。」
「それは俺も。唯とばったり会ったばっかりなのに拓真とも会うなんてな。偶然がこう続くと気持ち悪い。」
俺は背もたれにもたれかかってため息をついた。
拓真は変わっていない。
拓真はニコニコしていつも周りを明るくするようなやつだった。
だから、俺と唯のことをからかったときは正直驚いた。
そんなことを言うようなやつじゃないと思ってたから。
「んー、俺と唯ちゃんは偶然…ってわけではないんだよな。」
拓真が少し笑って言った。
俺は驚いて顔を上げる。
拓真の笑った顔は少し苦しそうにも見えた。
「俺が、唯ちゃんと共演出来るように頼み込んだんだ。
表向きには推薦ってことになってるけど、唯ちゃんの相手役が空いてるってなったときに姉さんに言って頼んでもらった。」
「そんなことが…」
「出来るのか」と。
俺はなぜか言葉に出来なかった。
それは拓真が、俺よりずっと唯の近くにいることを実感したから。
俺は無理なのに、拓真は手を伸ばせば唯に届く。
手を伸ばさなくても、唯とは居る世界が同じなんだ。
俺とは違う世界。
俺が足を踏み入れようと思っている世界。
「………6年前は、ごめん。」
拓真は少し俯いた。
「俺悪いことした。俺があんなこと言わなかったら…」
「謝るなよ。」
俺はじっと拓真を見つめた。
拓真もそれを聞いて顔を上げる。
「1番は素直にならなかった俺が悪かったんだ。」
「うん。それはお互い様。」
拓真はふっと笑った。
さすがにトップモデル、文句無しにかっこいい。
そのトップモデルがまさかの知り合いだったと気づいても、俺はあまり混乱しなかった。
身近だった人が有名になる感覚は、唯がいたせいで慣れたみたいだ。
「俺、唯ちゃんのことが好きだった。だからお前達をからかった。」
「知ってる。何となく分かってた。」