グレープフルーツを食べなさい
「帰ろう先輩」
 上村は私の言うことなど聞かず、握る手にさらに力を込めた。

 私は、今日だけだ、と強く自分に言い聞かせた。

 この手に縋ってもいいのは今日だけ。明日からはまた、強い自分に戻らなきゃ。

 零れる涙もそのままに、私は上村に手を引かれ夜の闇を歩いた。


――上村の手は、温かかった。



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