グレープフルーツを食べなさい
「そんなありきたりの案で、本当に集客効果が高まると思ってるんですか?」

 閉じられたドアの向こうから、厳しい口調で意見を述べる麻倉さんの声が聞こえた。

「失礼します」

 一瞬躊躇ったけれど、私は小さくドアをノックして会議室に入った。気が付いた岩井田さんと視線が合う。

 入り口近くにある予備のテーブルに一旦お茶を載せたお盆を置き、楕円状に並ぶ机に沿ってぐるりと回って、入り口とは反対側の席に座る岩井田さんの下へと向かう。

「岩井田さん、ファイルこれでよろしいですか?」

「ありがとう、三谷さん」

「お茶お出ししますね」

「頼むよ」

 私がお茶を配る間も、麻倉さんとうちの部長や社員たちとの激しい議論は続いていた。

 麻倉さんは相手が男性であろうと、自分より目上の人だろうと容赦はしない。しかし、口調は激しいが、決して感情的になっているわけではない。こちら側の意見をきちんと聞き、咀嚼した上でその問題点を挙げていく。

 はじめは渋い顔をしていた部長たちも、徐々に麻倉さんの話に説得されつつあるのがわかった。


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