グレープフルーツを食べなさい
 私は、彼女の仕事ぶりに圧倒されていた。男性相手に怯むこともなく、対等に渡り合っている。その姿は自信に満ち溢れ、同性の私から見てもとても素敵に見えた。

 視界の隅で麻倉さんのことを気にしながらも、私は手早くお茶を配っていった。

 ――最後の一杯を上村のテーブルに置く。

「ありがとうございます」

 小声で言う上村に、会釈を返す。久しぶりに聞いた上村の声だった。

 退出しようと、お盆を抱えドアの前に立ち一礼をすると、再び岩井田さんと目が合った。岩井田さんに笑顔で会釈して、顔を上げたその時だった。

 テーブルの一番端、私がいる間一言も発言することなく静かに座っていた上村が、麻倉さんを見て微かに片方の唇を上げた。

 自分の意見を否定され、一瞬感情的な言葉を口走った若手社員を、麻倉さんが冷静な一言で黙らせたのだ。

 上村の視線に気づいた麻倉さんは、一瞬照れを隠すかのように俯いた。

 私は、急いで会議室を出て、そこから足早に立ち去った。

 麻倉さんの堂々とした声が会議室から漏れ聞こえて、しばらく私を追い立てた。


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