すれちがい
 高校に入り、電車通学のハードさに少しうんざりしていた。優里がいるクラスの前を通ると、優里と友達の話声がした。
 
「ほんっと、地元の高校に行けばよかったと思うくらい、電車に乗るのは苦痛なの」
 
「そっか~。大変だね、電車通学は」
 
 そうだよな。オレでも大変な電車通学、優里にとってはどんなに苦痛か、考えただけでかわいそうになる。これからは同じ電車に乗ってやろうと思った。
 
 
 次の日、駅で優里を待っていると、向こうから優里が大地と歩いてくるのが見えた。
そうだ、大地も同じ高校だった。しかも今の優里と同じクラス……。
 
 オレは柱の陰に思わず隠れた。鞄から本を出し、読むふりをして顔を隠した。
 
電車は同じ車両だったが、オレは入り口近くで、本で顔を隠していた。
 
大地と楽しそうに話す優里。
 
その時突然のブレーキに車両が傾き、たくさんの人が押された。優里はつかんでいたつり革から手が離れ、押されるままに倒れこむ。
 
あぶない!とっさに優里の腕をつかんで引き寄せた。
 
優里の体を一度オレの胸に当てると、くるりと優里ごと体を返し、入り口の角に優里を包み込むことができた。
 
「大丈夫か?」
 
 オレが声をかけると、優里は驚いたようにオレを見て、さっと目を伏せた。
 
 そうだよな、自分を振った男の顔なんかもう見たくないよな。少しさみしい気持ちになったが、こんなに近くにいる優里の髪の匂いにドキドキが止まらない。
 
その時電車がカーブで傾いた。優里は必死で目の前にある手すりにつかまった。オレもその手すりにつかまり、後ろからの重みに耐えた。そうしていないと、自分の体が優里にくっついてしまいそうだった。
 
駅について扉が開くと、オレは真っ先に降りた。これ以上優里のそばにいると、心臓が爆発しそうだった。
 
次の日も優里は大地と電車に乗っていた。その次の日も、次の日も……。
 
そのあとしばらくして、大地と優里が付き合いだしたらしいと聞いた。
 
オレは、この優里に対する気持ちがなんなのかよくわからないまま、一緒に通学する2人を見ていた。
 
でもたぶん、大地とは2度と口を利かないだろうと思った。
 
 
 

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