忘れた
「だったら勇介が電話してくれたらよかったのに」


『だって、奈緒から電話してくれること滅多にないからさ。今回は待つって決めてたんだ』


電話の勇介の声は、ケンカする前の声と同じで、優しかった。


もう怒ってない。


安心して、舞花たちに笑顔を向ける。


と、里美が自分の携帯の画面をあたしに見せてきた。


そこには新規メールの作成画面が表示されている。


何やら文字が…


“今日、泊りに行ってもいい?”


はあ? と口パクで里美に伝えると、里美も、言え、と口パク。


無理無理、と口パクするあたしに、里美は身振り手振りで、言え言えと連呼。


『奈緒?』


もう、分かったよ。


「勇介、今日泊りに行ってもいい?」


え、と驚いた声の後、勇介は言った。


『嬉しいよ、全然…あ、今日は夜間バイトがある』


玉砕。


「そっか。それならいいの」


『で、でも、明日ならいいよ』


まじで?


あたしは小さくガッツポーズした。

< 121 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop