綺麗なままで

 術後の経過は順調なように見えた。しかし、弱った身体に全身麻酔の手術はやはり負担が大きく、病気の進行が早まったらしい。

 本当にあっという間、だった。

 何が何だか訳がわからないじゃないの、と文句のひとつも言いたくなるほど。でも、一番文句を言いたいのは過去の自分に対してだ。

 近くに住んでいたのだから、もっと会いに行けば良かった。そうすれば、母の異変にも早く気付いたかも知れないのに……。


 この件があって以来、ご両親との同居を希望する魚住さんの気持ちも、理解できるようになった。彼との将来を前向きに考えられるようになったのは、母のおかげであることは間違いない。

「そろそろ、葬儀屋さんが来てくれます。仕事に出られなくてすみませんって、皆さんにお伝えください」

「そんなこと、気にするなよ。……それより、夜はひとりで大丈夫?」

 彼はいつも、私を心から気遣ってくれる。でも。

「ひとりじゃないから、大丈夫ですよ」

 静かに眠っている母を見ながらそう言ったら、ばつの悪そうな顔をして、魚住さんが頭を掻いた。

 彼は本当に優しい人だ。商売柄、他人を見る目は確かな母からもお墨付きをもらえた。

 付き合いはじめたばかりの彼を巻き込んでしまったけれど、紹介できたのは良かったと思う。ほんのちょっとだけ、親孝行した気持ちになれた。


「あのさ、君のいない時にこっそり、お母さんから『よろしくお願いします』って言われたんだ。いつもいい子でいるけど、本当はとっても寂しがりやだからって……母親に甘えられなかった分、いっぱい甘やかしてねって」


 部屋に漂うひんやりとした空気をスムーズに吸い込めない。視界が揺れて、堪え切れずに嗚咽を漏らす。

 胸の奥深くにしまいこんでいた感情が蘇る。本当は気付かれていた私の寂しさと、それに応えてやることができなかった母の気持ち。


 私はこの時やっと、母に甘えてすがりついた。


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