綺麗なままで

 久しぶりの親子水入らずの夜。

 綺麗な顔で布団に横たわる母と、同じメイクの私。もちろん、以前教わった時よりはナチュラルメイクで。


「外へ出る時は、母娘おそろいで」


 母の願いはおそらく、愛用のコスメで最期のメイクを施してもらうことだった。

 自分が一番似合うコスメで、自然な美しさのまま。

 ナースでも葬儀屋さんでもなく、娘の私の手によって。

 だからあんな言い回しになったのかも知れない。


「お父さんって、本当に天国にいるの?」

 もちろん、返事はない。でも。

「そっか。だからちゃんとメイクして欲しかったんだ。きっとお父さん、若くしてあっちに行っちゃったんでしょう。『お前、老けたな』とか『化粧浮いてるぞ』なんて言われたくないもんね」



 ……大丈夫だから。綺麗なままで行ってらっしゃい。

 心の中で呟いて、また穏やかな微笑みを浮かべる母の顔を見つめた。



【完】

< 11 / 12 >

この作品をシェア

pagetop