サヨナラなんて言わせない
「なんだか嬉しそうに帰って行ったわね」

「そうだな」

事務所から帰っていく夫婦を見つめながらカナが言う。

「予算的には結構厳しいんだ。でもだからこそやりがいがある。俄然やる気が出てくるね。お前もだろ?」

「ふふ、予算関係はこのカナ様に任せて頂戴。いかに上手に資金運用するか、腕の見せ所だわ」

「いつものことながら頼もしいことで」

得意げに笑うカナがいつも以上にたくましく見える。
俺の今の成功はカナなしではあり得ないと断言できる。
俺は専門的なことには長けていても、資産運用に関してはかなり苦手だった。あの時カナが俺を支えると言ってくれていなければ、今のように仕事は順調に進んではいなかっただろう。

俺はすぐにデスクにつくと、さきほどメモした大量の情報を元にスケッチブックに簡単なラフ画を描いていく。本格的な設計をする前にこうしてイメージ画を殴り書きしていくのは、学生の頃からずっとやっている俺の習慣だ。

そんな俺の姿をカナはずっと眺めたままでいる。

「なんか最近やけに張り切ってない~?何かいいことでもあったの?」

不意に意味深な質問を投げてくる。
俺にとっていいこととは一つしか指さないことをわかった上でのことだ。
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