サヨナラなんて言わせない
「私も高校卒業したら家を出るんだ~。そして必死で働いて勉強するの」

「いつか店をもつのが夢だって言ってたもんな」

ニコッと女性顔負けの顔で笑う。

奏多は性同一性障害というやつだ。
中性的な顔立ちで幼い頃からよく女の子と間違われることがあったが、いつからか本人も自分が男であることに嫌悪感を抱くようになっていたらしい。
それが家族とうまくいかない要因の一つでもあるようだった。
昔から見た目だけでもからかう連中はいたが、本人がそれを自覚してからはさらに悪質にいじめる奴もいた。

中学生になって間もない頃、泣きそうな顔で彼にその事実を伝えられた。
彼からすれば死にそうなほどの勇気が必要だったに違いない。
俺との友情が一瞬でパーになってしまう可能性があるのだから。

でも俺はそれを聞いても何も変わらなかった。
別に奏多が男だろうとそうじゃなかろうとどうでもいいんだ。
奏多という人間でさえいてくれれば。
器なんてどうでもいい、俺が彼を信頼しているのはその中身なのだ。

何も変わらない俺に奏多は涙を流して感謝していた。
・・・・バカだなぁ。俺の友情を見くびるなよ。

それからというもの、奏多は俺の前では本当の自分を隠さなくなった。
そうして俺たちの友情は揺るぎないものへとなっていった。
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