もうひとつのエトワール


「よし、じゃあこうしよう」


何かいいことでも思いついたように言い放った彰良に、カップを口から離して向き直ると、触れ合うように一瞬だけ唇が重なった。


「これなら特別感、あるだろ?」


滅多に見せないいたずらっ子のような彰良の笑顔に、隠す間もなく顔が熱くなった。


「さてと、じゃあそろそろ晩飯の用意でもするかな」


立ち上がった彰良はクシャっと頭を撫でて、そのままキッチンへと歩いていく。

真っ赤な顔でしばらく呆然と座り込んでいた菜穂は、しばらくして我に返ると、テーブルの上に残されたもう一つのカップに向かってボソッと呟いた。


「……彰良の、バカ」
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