もうひとつのエトワール
そんな真希の額に軽くデコピンをお見舞いしてやると、菜穂は晴れやかな顔で大きく体を伸ばした。
「痛いですよ、菜穂さん」
額を押さえて抗議の声を上げる真希をサラッと流して、電卓の数字に視線を戻す。
今日の売り上げも中々いい感じだ。
「そういえば、あんたはいつまでここにいるつもり?」
閉店時間はとっくに過ぎて、店の片付けも掃除も終わっている。
真希の鞄がパンパンになっているところを見ると、戦利品のパンも選び終わったようだ。
「棗さんが、映画に連れて行ってくれるそうなんです。この間ご飯をご一緒した時に、最近気になっている映画の話になって、そうしたらたまたま棗さんも同じ映画が気になっていたって。だから、公開日に一緒に観に行こうってことになったんです」
にこにこと屈託のない笑みを浮かべる真希は、その話を持ち出した棗の真意が全くわかっていない様子で、兄の前途の多難さに知らず同情するようなため息がこぼれ落ちた。
「菜穂、お前まさか……」