未明
シーン7 要子(ヨウコ)
   要子は最後の1冊のノートを手にしている。

記子 「これで最後だね。」
要子 「うん。」
記子 「これを燃やしたら、要子はもう私を忘れちゃうんだよね。」
要子 「記子。」
記子 「うん?」
要子 「私が記子を嫌いだったのはね、記子を見てると、
    昔のみじめで、情けなくて、恥ずかしい私を思い出しちゃうからなんだ。
    だからホントは、私が嫌ってたのは記子じゃなくて、昔の自分なんだよ。
    でも、こうしないと、私は先に進めないんだ。」

   要子は最後のノートを、そのまま一斗缶の中に入れて燃やす。

記子 「消える前に一つだけ。私は要子の日記だから、要子が辛かったことも、
    悲しかったこともみんな知ってる。だから、それを乗り越えてきたのが、
    要子自身だってことも私は知ってる。頑張ったのは要子なんだよ。
    それだけは、忘れないで。」
要子 「ありがとう、記子。」

   最後の一冊を焼き終えると、空が白んでくる。波の音が大きく聞こえる。

渡  「要子!」

   要子は後ろを振り向く。国道の方から渡が走ってくる。
   記子の姿は誰にも見えない。
   

要子 「渡君。迎えに来てくれたの?」
渡  「だって要子、夜中にいきなり出かけたと思ったら、
    なかなか帰ってこないから。」
要子 「ごめん。なんだか、感慨深くなっちゃってさ。」
渡  「記子さんとは、ちゃんとお別れできた?」
要子 「うん。大丈夫。」
渡  「そっか。じゃあこれ、記念にプレゼント。」

   渡、文具屋の紙袋を取り出し要子に差し出す。

要子 「うわぁ。」
渡  「なに、その反応。」
要子 「紙袋にあんまりいい思い出がなくて。」
渡  「いいから、あけてみてよ。」
要子 「うん。」

   要子、紙袋をあけると日記帳が束で出てくる。

要子 「これ…。」
渡  「俺たちの新しい記子さん。1年に1冊なんて言わないでさ、
    これからは楽しいこといっぱいの記子さんを一緒に書こう。」
要子 「…(はにかみながら)ありがとう、一弥(カズヤ)くん。」

   日が昇り始め、辺りがだんだんと明るくなる。
   穏やかな波の音が聞こえる。
   要子と渡、手をつないで国道の方へ去って行く。
   その背中を、記子が一斗缶の横に佇み、見送っている。

   完
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