失 楽 園
「や……やだ、恭ちゃん。驚かせないで」
必死に平静を装いながら言うと、
男はくくっ、と
さも愉快そうに笑った。
「驚かせるつもりなんてないよ」
「なら、足音を消すのをやめてちょうだい」
「ああ……」
私の言葉に、男は納得したように
フローリングの床を足で擦る。
しゅるしゅる、とスリッパが擦れ、
蛇が舌を轟かせた時のような音がした。
「ごめんね。癖になってるみたいだ」
「そう」
男は私を抱き締めたまま、離れない。
そして私の耳元に口づけながら、
静かに言った。
「これは……なに?」