失 楽 園



「えっと……弟、の……恭ちゃん」

「そう……」


すっと目を細める男。

 ハラワタが煮えくり返る。

姉さん、僕は、姉さんの弟以外、
何者でも無いの?

男は頬杖をつき、
僕を見たまま自己紹介をした。


「俺は荒瀬比呂(あらせひろ)。
 お姉さんとは、いいお付き合いを
 させて貰ってるよ」


カァーッと頭に血が上った。
怒りに任せて荒瀬と名乗った男を
殴りそうになって拳を握り締めたが、
僕のシャツの裾を握り締める

 姉さんの手が、

それを許さなかった。


< 34 / 187 >

この作品をシェア

pagetop