臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 山本が康平に言った。

「梅ッチから左フック……あぁ健太は右フックだったな。そのパンチの踏み込み方は習ってんのか?」

「いいえ、まだです」

「これも実演が必要だから明日の練習の時だな」

「分かりました。……それと、もう一つ二人に訊きたいのですが……」


「何だ、遠慮しねぇで言ってみろよ」内海が言った。

「内海さんと山本さんは、戦っている時怖くないんですか?」

 内海と山本は顔を見合わせた。他の三人の一年生も二人をジッと見る。おそらく彼らも訊きたかったのであろう。


 内海が真面目な表情で答えた。

「怖くねぇわけねぇだろ。相手も必死だからな」

「そうそう、試合の時なんかは特にそうさ。会場にいる奴らが、みんな自分より強そうに見えるしな」

「試合直前なんか緊張してよぉ、簡単なパンチでも食らいそうな気がするんだぜ」


「信じられないッスね」

 健太の言葉に山本が言い返す。

「アホ! コレは戦った事のある奴しか分かんねぇ心境だ」

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