誇り高き

記憶〜参〜

両親が死んで、莵毬も里からいなくなってしまって、暫く経った頃。

そんな時だ。

小十郎が話し掛けてきたのは。

その時はまだ、楠と言う名字はなかった。

『貴女が紅河さんですよね』

その頃の私は、まだ幼かったけれど里では一番強い存在だった。

皆恐れて近付かないし、私も誰かと話したいなんて思わなかった。

だから、いきなり声を掛けてきた小次郎は非常に殊な存在で。

私は警戒して、こっそりと懐の中で刀を抜いた。

そんな私の思いを知らずに、

『僕、小十郎って言うんです。よろしくお願いしますね。紅河さん』

と、にっこりと笑って言ってきた。

私はさらさら誰かと馴れ合う気なんてなかったし、里の者からは相当恨まれていたから、こいつもそういう奴の一人だと思い、無視をした。

それからだ。

彼は毎日私に付きまとった。

どんなに無視を続けても諦めなかった。

私が全身に血を浴びていても、彼は黙って手拭いを差し出してきただけだった。

流石に私も諦めて、好きなようにさせていたのだけど、ある時小十郎がぱたりと来なくなった。

付きまとわれるのが当たり前になっていたから、多少気になりはしたのだけれど、大して深く考えはしなかった。

どうせ、私の事が嫌になったのだろうと。

その翌日、噂で小十郎が瀕死の重症を負っていると聞いた。

何者かに襲われ、道に倒れているのを発見されたらしい。

それから暫くして、更にもう一つの噂がたった。

小十郎を襲ったのは私だと。

更に私は憎悪の目で見られるようになった

今更、どうにも思わなかったけれど。

時折私も襲われたけれど、全員返り討ちにした。
< 100 / 211 >

この作品をシェア

pagetop