誇り高き
紅河。

再び逢うことは無いと思っていた。

大切な少女。

否。

もう、少女ではなく大人になっていた彼女は。

あの頃のように、明るい微笑みも俺を呼ぶ声もすっかり変わっていて。

これが、本当に紅河かと。

本当の紅河は、こんな皮肉に笑わない。

こんな、冷たい顔をしない。

もっと、暖かくて表情豊かなんだ。

彼女は大人になってしまった。

俺の知らない女になってしまった。

見ていられなくて。

それでも、死んで欲しく無かったから。

必死で頭を下げて。

いつから彼女は、こんなになってしまったのだろう。

何故、生きることを諦めるようになってしまったのだろう。

あの地獄のような村で。

掟に縛り付けられ。

両手を真っ赤に染め。

彼女だけは変わらないで欲しかったのに。

______莵毬と。

読んで欲しいのに。

ただ、それだけなのに。

けれど、それは。

俺が、望んではいけない。

彼女の感情を殺したのは俺だから。

だから、せめて何処かで平和に生きていてくれたらと。

だのに、何故ここに来た。

何故隊士になりたいと言う。

もう、血に染まる必要なんか無いのに。

それすらも、願う事を許されないのか。

彼女の安全を望む事さえ、駄目なのか。

俺は、彼女が生きていると信じていたからここまで来た。

彼女は、俺のたった一つの望みだった。

それさえも失ったら、もう絶望しか残らない。

いっそ、どうせ失うなら。

俺が終止符を打とう。

本気で殺そうとしたのに。

彼女もそれに気付いていたはずなのに。


彼女は_______

『莵毬を傷つけなくてよかった』

莵毬。

そう呼ぶ声は。

今も昔も変わっていなかった。

紅河は、紅河だった。



やっと気付いた。

俺がすることは、彼女の人生に終止符を打つことじゃない。

彼女を守ることだ。

今度こそ命をかけて、守る。

大切な紅の華。

どうか、散らないで。



< 19 / 211 >

この作品をシェア

pagetop