誇り高き

幕間 安らかなひと時









これはある、昼下がりの穏やかなひと時。












「かぁーてうれしいっ花一匁っ」

「まけーてくやしい花一匁っ」


壬生寺に響く元気な子供達の声。

「あの子が欲しいっ!」

「あの子じゃわからんっ!」

「「まーるくなって相談っ……」」



元気良くあっかんべーとやり合う子供達の中に。

二つだけ大きな影がある。

一人は楽しいそうに笑いながら。

一人は疲れた顔をして。

子供達と手を繋いでいた。

「「きーまった!!」」

「総司が欲しいっ」

「紅河が欲しいっ」



「これは、頑張らないといけませんね」

にこにこと笑う沖田。

「……………」

更に疲れた顔をして、紅河は前に出る。

「じゃんけん、ほい」


「「あっ………」」


「紅河の負けー」

「……………そうか」

「総司にいちゃんと手繋いでー」

紅河の顔が疲れた顔から、物凄く嫌そうな顔に変わる。

「酷いですね。そんな顔しないで下さいよ」

溜息を吐くのを全力で堪えながら、仕方なく沖田と手を繋ぐ。

________そもそも何で私はこんなことをやっているんだ?



そんな紅河の心中を、察したように沖田が言う。


「まあ、良いじゃないですか。たまには子供達と遊ぶのも」


沖田は好きでやっているから良いだろう。

だが私は違う。

何故たまにの非番をこんな事に使わなければならないのか。

全く以って解せない。


「………そろそろ花一匁も飽きたな。違う遊びにしないか?」


「いいですけど、何をやるんです?」

「鬼ごっこだ」

にやりと紅河が笑う。

「甘味を賭けた、な」


______________________

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やがて陽が暮れてきた頃。

「沖田の金平糖も無くなったことだし、ここで終わりにするか」

「総司にいちゃん金平糖ありがとう。紅河にいちゃんまたね」

「……ああ。また、な」

「……ええ、どういたしまして」

最初の笑顔はどこへやら。

沖田は力ない笑顔で手を振る。

子供達が全員帰った後。

ぺしゃんこになった紙袋を見つめて、沖田は悲しそうに溜息を吐いた。

「私の金平糖が………」

紅河の言う甘味を賭けた鬼ごっこ。

それは沖田対紅河と子供達の鬼ごっこ。

沖田は捕まると鬼に金平糖をあげなければならない。

そうして遊ぶうちに、沖田の金平糖はすっからかんになったわけだ。


「まあ、良いじゃないか。たまにはな」

くすっと紅河が笑う。

「む………」

「ああ、早く帰らないと口煩い鬼にどやしつけられるな。ほら、私達も帰るぞ」

「別に土方さんなんて、ほっといても良いです!…………それより紅河さん。楽しかったですか?」

目を瞬かせると、紅河は先ほどよりも優しい目をして笑った。

「…………悪くは、ないな」

「また、皆んなで遊びましょうね」

「…………また、な」






赤く染まった空が、だんだん藍を帯びていく。




少しくらい、今日みたいな日があっても良いな。



自分でも何故かわからないが、紅河はとても満ち足りた気分がしていた。













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