誇り高き
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「えー、今日は新入隊士を紹介する。紅河君‼︎」

近藤に呼ばれ、男装した___と言っても髪を縛っただけだが___紅河が前に進み出た。

「只今紹介されました紅河です。宜しくお願いします」

「……彼奴、性格変わってないか?」

それまでは、敬語など一切使わ無かったのに。

てっきり土方は、敬語を使えないのだと思っていた。

そんな土方の気も知らず、近藤は挨拶を続ける。

「では、紅河君の入隊を歓迎して。乾杯!」

酒のたっぷり注がれた杯を持ち上げる。

とぷんと揺れて溢れた酒が、紅河の白い手をつーと伝っていった。

「「「乾杯」」」

こくりと皆の喉が動く。

仄かな甘みのある、良い酒だった。

「お、今日の酒を選んだのは斎藤か!」

「あぁ」

「斎藤の選ぶ酒は美味いからなぁ」

原田が大声で叫ぶ。

「左之。腹踊りを紅河に見せてやれ‼︎」

永倉も大声で叫ぶ。

「おう!」

原田は褌一丁になると、切腹傷のある腹をせり出し踊り始めた。

「よっ、死に損ない」

「死に損ね左之助‼︎」

こうなると、彼方此方から掛け声が聞こえる。

……紅河は見向きもしなかったが。

「紅河さーん。お酌しますよ?」

そんな彼女に沖田がするすると寄ってくる

「いえ、沖田さんにお酌をしていただくわけにはいきませんよ」

「良いですって。あっ、それとも下戸なんですか?」

「いいえ、お酒は好きですよ」

「じゃあどうぞ」

どぼどぼどぼ

すごい勢いで出てくる酒。

あっと言う間に溢れ、床にこぼれる。

「ありがとうございます」

紅河は、一気に杯を煽った。

「良い飲みっぷりだ」

それを見て、斎藤が声をかけてくる。

「美味しい酒ですね」

紅河は満足気に呟く。

「ほう。なかなか味のわかるようだ」

「ふふふ。好きですから」

「斎藤さんは、壬生浪士組きっての酒豪ですからね」

「他の奴らが弱すぎるだけだ」

「斎藤ぉ。言ってくれるじゃねぇか‼︎‼︎」

すっかり酔った原田が近寄ってくる。

「よし、こうなっなら左之。飲み比べしかないぜぇ」

同じくすっかり酔って原田と肩を組んだ永倉。

「今日こそ一君を倒すんだ!」

そこに藤堂が入れば、三馬鹿の完成だ。

「よし。斎藤、勝負だ‼︎」

「あんたはもう酔っている」

冷静に言う斎藤。

しかし、酔ってる三人には通用しない。

「おーし、酒持ってこい!」

平隊士に大量の酒を持ってこさせる。

「ついでに桶も持ってこい」

斎藤と諦めたようで、桶を要求する。

「あ?何で桶が必要なんだぁ?」

「あんたらの汚物の処理のためだ」

賢明な斎藤は、煩い三馬鹿を黙らせるために、飲み比べをして酔い潰すことを選んだようだ。





数分後。

原田、永倉、藤堂の三人はあっさりと酔い潰れた。

「確かに、弱いですね」

原田の丸出しの腹を扇でつつく紅河。

先程から原田は何か呻き声を上げているのだが、全く気にせずつついている。

服を着ていないから寒いだろうと言う気遣いもない。

「へっぶしっ」

くしゃみをしても嫌そうな顔をして、はなれるだけだ。

「汚ないですね」

仕方なく斎藤が布団を掛ける。

「馬鹿は風邪を引かないと言いますし、大丈夫では?」

「……そう言う訳にもいかないだろう。馬鹿でも大事な戦力だ」

斎藤も斎藤でなかなかの言いようだ。

と言うか、それ程馬鹿なのだろう。

紅河はくすっと笑った。

「随分と、俺たちの事を警戒している様だが」

「…はい?」

いきなり話を変えた斎藤。

紅河はそれについて行けず、一瞬反応が遅れた。

「話し方」

「それが?」

「全然違うだろう」

敬語の事を言っているのだろう。

最初に話した時は、敬語を使っていなかった。

話し方もまるっきり違ったから。

それが、斎藤には警戒している様に聞こえたらしい。

別にそう言うわけじゃない、と紅河は胸の中で呟いた。

「警戒…ですか。まあ確かに、今日会った人を信用するのは私の性分ではありませんね」

忍はどんなことにも慎重でならなくてはいけない。

「けれど、それとこれとは話が違います」

「……そうか」

それっきり、斎藤は黙ってしまった。




それから暫く。

いつの間にか、起きているのは斎藤と紅河だけになった。

それでもまだ酒は残っている。

「そろそろ片付けをするか」

勿体無いから余った酒を全て飲むと言うことらしい。

「まだいけるな?」

「誰に聞いているのですか」

何方もかなり飲んでいたのに、全く酔っていない。

表情を変えずにするすると余っていた酒を飲み干した。

「俺は、もう失礼するぞ」

「はい。おやすみなさい、斎藤さん」

「……あぁ」

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