誇り高き

何故ばれた?

紅河は顔には出しはしないものの、内心酷く動揺していた。

今まで、一度もばれた事など無かったのに

やはり、顔も男に変えるべきだったのか?

「うっ……」

何かが、せり上がってくる感覚がして、紅河は口元に手を当てて、厠に駆け込んだ

「う…あ…ぁ」

胃の中にあるもの全てを吐き出す。

喉の奥がひりひりして痛い。

鼻をつんと刺す臭いがする。

「けほっけほっ」

今だに喉を締め付ける感覚が残っている。

パチン

首輪の金具を外す。

その下から、紫色になった手の跡が出てきた。

其れと、もう一つ。

左首に流れる様にある紅の華弁も。

「紅河⁈どうしたんや、その首」

厠から出てきた紅河とばったり会った山崎

彼女の首を見て、思わず声を上げる。

何も答えない紅河。

「取り敢えず薬を持ってくるさかい。部屋で待ってろ」

そう言うと、山崎は駆けていく。

紅河は、その背を呆然と眺めていた。





「……か。紅河!部屋で待ってろと言ったのに、何でそこにいるんや」

紅河は、山崎が来たのにも気付かず立っていた。

肩に手を置かれて、やっと気付く。

「つか……山崎さん?」

「手当するさかい、部屋に行くで。何があったかは、そこで聞く」

山崎は、肩に手を置いた時、その華奢な体が震えているのに気付いた。

一体、何があった?

自分の気付かないうちに、一体何が。

唯一分かることは自分が紅河を守れなかったこと。

山崎は、悔しさに唇を噛み締めた。




其れから、部屋に戻った紅河は山崎にぽつぽつと語った。

「そうか……芹沢さんが…」

短くなった紅河髪を見て、山崎が溜息をつく。

女子供にも、構わず暴力を振るう乱暴者の芹沢。

しかし____

「髪を切るだけでで済んで良かったと言うとこやな」

体は誤魔化しようが無い。

体を見せろと言われたら間違いなくばれていた。

髪の毛だけで済んだのは幸運だったと言える。

紅河は黙って俯いている。

その様子に山崎は、息を吐いた。

「こう……」

「紅河!大丈夫か‼︎」

山崎の言葉を遮って、戸が開く。

そこには、土方、沖田、永倉、斎藤、原田藤堂がいた。

紅河は一瞬目を見開いた後、苦笑を浮かべた。

「大丈夫です。山崎さんから手当をしてもらったので」

包帯を巻いた細い首が痛々しい。

「「「済まなかった」」」

「はっ?」

皆が頭を下げてきて、紅河はぽかんとした

「済まなかった。俺達が芹沢さんを止められなかったばかりに。辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」

「顔を上げて下さい。皆さんが謝ることではありませんよ」

「だが…」

「これは、私の注意不足ですので」

感情を殺す事は、慣れている。

紅河は、動揺を押し殺した。

「そんな事は無いだろ」

「顔色が悪いぞ」

口々に言う、幹部たち。

彼等は純粋に心配しているだけ。

其れを分かっているけれども、弱さを見せることは、紅河の矜恃が許さなかった。

「本当に大丈夫なのか……?」

随分と疑り深い土方に、彼女は笑って見せた。

「大丈夫ですよ。ご心配、有難う御座います」

その紅河の頭を山崎が軽く叩いた。

「阿呆」

紅河は無言だが、不満気な様子で山崎を見る。

「きついこと言えば、確かに今回はお前も悪いとこはあるわ」

「………」

「な、山崎君⁈紅河君に非は無いぞ!」

「局長。甘やかしたって、こいつの為には何もならんですわ」

そう言うと山崎は紅河の手首を掴んだ。

紅河は振り解こうとするものの、なかなか振りほどけない。

「分かるやろ。今だってわいは大して力を入れてへん。やけど、お前は振りほどけんやろ」

「……離して、くれますか」

「わいは散々力を付けろ言うたよな。お前は速さに頼りすぎだって何遍も言うたよな。ましてや、お前は女や。いくらお前が強くても、力で男には勝てん」

「…………」

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