誇り高き

記憶〜弐〜


目が見えないと、他の五感がよく働く。

嗅覚、味覚、触覚、聴覚。

普段以上に鋭くなるのだ。

だから、より鋭敏になった私の聴覚は聞き慣れた微かな足音を確かに捉えた。

この足音は_______

『母上………』

『静かに。いい子だからここを動いては駄目。気配を消して。_____そう。いい?何があってもじっとしていなさい。分かったわね』

『はい』

母上は私を抱き締める。

『忘れないで。紅河。私もお父様も貴女を愛してる。………だから、どんな手を使ってでも生き延びなさい』

足音が近づいてきている。

『紅河。生きろ……そして、彼を恨まないでやってくれ』

ぎぃと扉が開く。

僅かに入った光が母の顔を照らした。

『さようなら。私の________……』

光の中で優しく微笑んでいる母。

きらりと涙が光る。

直後、私の体に生暖かい液体がかかった。

狭い部屋の中に臭気が充満する。

ぱたぱたと滴る水の音。

あれは、何の音?

私の体に倒れかかる人は誰。

そして、何よりも。

私の足元に倒れている人の体から、剣を抜き取る人は誰。

あれは、彼は。

私のよく知る人。

気配も動作も全て彼そのもの。





何故、貴方なのか。

私は、貴方を恨むことは出来ない。

でも、ならばこの感情を私はどうすればいい。

どこにも、行くあてもない感情を。

‘‘捨ててしまえ”

どこからかそんな声がした。

どこにも行くあてのない感情など不要。

ならば、そんな感情捨ててしまえ。




私は、どうすれば良いのだろう。





どうして、何故。

教えて、莵毬。

どうして、母上と父上は殺されなければいけないの?

何故、莵毬が殺したの?




答えは、己が一番分かっている。








________全ては、私が未熟だから。






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