「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
004:戻れない日々
「シンファ…街道がどうかしたの?」

そう訊ねたアズロの無邪気な顔に、僕の頬は緩んだ。



「なんでもないよ。
僕は、ちょっと変わり者なだけ。
山道は辛いけど……でも、やっぱり山を選んで良かったって思うよ。」

「どうして?」

「……山の空気は美味しいからね。」



僕のその言葉は嘘だった。
でも、本当のことなんて、照れ臭くてとても言えないよ…



(……街道を通ってたら、きっと君とは会えなかったから…)



「……どうかしたの?」

「なんでもないよ。
さ……麓まではもう少しだ!
そろそろ行こうか!」

僕が立ちあがると、アズロもそれに倣って立ち上がった。



そこからはとても楽な道程だった。
誰か通る者でもいるのか、明らかに人間の手を加えられた道があって、先程までとは違い、息があがるようなこともなかった。



「もうすぐだね。
麓にはきっと村がある筈だから、今夜はそこに泊まることになるかな。
あいにく、宿には泊まれないけど…」

「シンファ……麓に着くまでに少し君のことを訊いても良い?」

「……あぁ、構わないよ。
どんなことから話そうか?」

「じゃあ……
君のその身体は生まれつき、そうなの?」



随分と率直な質問だ。
だけど、変に気を遣われるよりは良い。



「ううん…僕も最初はごく普通だったらしいよ。
ごく普通の赤ん坊で生まれて、ごく普通の子供として育ってね……
その頃は、皆、僕をとても可愛がってくれたよ。」



はっきりとした記憶があるわけじゃないけど…
僕は、皆から愛され可愛がられる子供だったように思う。
僕の育った村は、住んでる人々も少なかったけど、老人が多かったから子供もほとんどいなくて…
僕と一番年齢が近かったライアンでさえ、僕より七つ年上だった。
だから、僕は皆から愛され可愛がられて……



そう…みんなが僕のことを愛してくれた。
僕の父さんは、僕が生まれてすぐに死んだらしく、記憶は全くないけれど、皆が優しくしてくれたから、父さんがいなくても少しも寂しいなんて思わなかった。



僕は、アズロに話しながら、その頃のことを思い出していた。
思い出したくなくて封印していた昔の記憶……
あの頃の幸せな日々は、幻だったんじゃないかって思える。
いっそ、そうだったら良いのに……
そしたら、きっと僕の心はこんなに傷付かずに済んだのに……

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