「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
007:止んだ歌声
ある時からだんだんと村の皆の様子が変わっていくのを、僕は感じるようになったんだ。
もちろん、優しくはしてくれた。
だけど、その態度はどこかよそよそしくて……
一度、村の広場で皆が集まって何かを真剣に話してることがあった。
僕が行くと、皆は途端に作り笑顔を浮かべて…そして、適当なことを言って、散り散りに別れていった。
あの時、皆が僕のことを話していたのは間違いない。
皆…顔では僕のことを心配しているふりをして、実際は……
でも、仕方がないことだと思ってた。
だって、僕はこんな身体なんだから…



そんなある日、真夜中に僕はふと目を覚ました。
夢で、歌声を聞いたような気がしたから。
だけど、それは夢ではなかったみたいで…
耳を澄ますと、実際に聞こえてたんだ。



(こんな真夜中に一体誰が……?)



それは人間離れした…澄みきった女性の声だった。
訊いたこともなければ、意味もわからない不思議な言葉を歌っていた。
誰が歌ってるのか気になって、僕は声のする丘の方へ歩いていったんだ。



闇の中で女性が歌いながら踊っているのがちらりと見えた。



「母さん…?」



その晩は新月で空は明るくはなかったけれど、流れたまっすぐな金の髪が見えた気がして、僕はふとそう感じた。
金色でまっすぐで長い髪をしていたのは、村では母さん一人だけだったんだ。
でも…母さんは歌が苦手だと言って、今まで人前では一度も歌ったことがなかった。
僕は子守歌さえ歌ってもらった記憶がない。
だから、母さんである筈がない。

僕が近付いた気配に気付いたのか、歌声は急に止み、女性はその場から走り去った。



僕はまだどこか夢を見ているような気がして、そこに何か痕跡がないかと思って探してみたけど、暗いし、何もみつかるはずもなく…

家に戻ってそうっと母さんの部屋をのぞいて見ると、母さんは何事もない様子で眠っていて、やはりさっきの人が母さんじゃないことがわかった。

もしかしたら、僕は夢を見ていたのかもしれない…
そんな気さえして来て、僕はおかしな気分でベッドに入った。



それが、僕にとって、最後の平和な夜だとも気付かずに……
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