「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
彼は、ふっと頬を緩ませ、僕の手に片手を重ね……



その表情が急に強張ったものに変わった。



「……なぜ?」



それは当然の反応であり…しかし、他の人とは違うものだった。
彼の緑色の瞳には畏れの色は少しもなかったのだから。



だから、その「なぜ」が、まるで子供のように無垢な質問だとわかった。
悪意も何もない……ただ、彼は理由がわからないだけなのだと、理解出来た。



「さぁ…それは僕にもわからない。
きっと、誰にもわからないんだと思うよ。」

「だから、君は自分のことを幻だなんて言ったんだね。」

「……皆は、僕のことをもっと違う呼び方をするよ。
『ゴースト』ってね。」

「それは、酷いな。」

アズロは曖昧な笑みを浮かべたまま、そして感情のこもらない口調でそう言った。
そのことが僕には少し奇妙に思えた。
普通の人間は、大概、僕のことを気味悪がる。
その感情を隠そうともせず…いや、隠す余裕さえもない程、あからさまにひきつった顔で僕を見る。
だけど、彼はそうじゃなかった。
僕のことを畏れもせず、嫌いもせず……かといって同情する素振りもない。
眉を寄せ、目尻を下げて、気の毒に…と、今にも泣きそうな顔をすることもなかったのだ。
僕には、このアズロという者がますますわからなくなったが…そんな淡々とした彼に、なんとなく好感のようなものを感じ始めていた。




「君は、幻でもなけりゃゴーストでもないのに、おかしいね。」

「そう?僕は、最近、自分でもゴーストなんじゃないかって思うことがあるよ。」

「それは違うよ。
君は、ほんの少し他の人と違うだけだよ。
……僕と同じく、ね。」



同病相憐れむというやつか…
しかし、彼の口調には僕を憐れむ様子も、自分を卑下する様子も見受けられない。



……アズロという人は、無垢なのだと再び想った。
彼と僕が他の者と違うという事実しか、彼は受け止めてはいない。



「あ……明るくなったね…
ほら、君はゴーストなんかじゃない。
夜が明けても、君は消えたりしないもんね。」

アズロは、空に向かって大きく腕を伸ばし、気持ち良さそうに伸びをする。



「……僕は変わったゴーストだからね。」
その日の太陽は、僕にはいつもよりずっと明るく輝いて見えた。
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