「異世界ファンタジーで15+1のお題」五




母さんが急に旅行に行きたいと言い出したのは、もうだいぶ前のことだ。
母さんが旅行に行きたいなんて言ったことは今まで一度もなかったし、実際に行ったこともなかった。
僕も母さんも、そして他の村の人達のほとんど誰も旅行なんて行ったことはない。
せいぜい、きのこ採りでいつもは行かない遠くの山に行ったことがあるくらいだ。



だけど、出来ることなら僕は母さんのその願いを叶えてあげたいと思った。
僕の父さんは僕が生まれてすぐに亡くなり、その後、母さんは再婚もせず、一人でただひたすらに働いて僕を育ててくれた。
高価なものを欲しがることもなければ、美味しいものを食べたがることもなかったし、考えてみれば本当に無欲な人だ。
そんな母さんも、僕が成人してようやくほっとしたのか、何か心境の変化みたいなものがあったんじゃないかって……
僕はそんな軽い気持ちで、母さんのその願いに賛成した。
だけど、旅行の費用は、ほんのわずかしかあげられなくて…それが息子としてとても残念だった。



僕の仕事は、キャンベルさんやライアンと一緒に山に入り、薪を拾い集めることだ。
それらを月に一度、町まで売りに行く。
たいした儲けにはならないけれど、僕らの村にはこれと行った産業がないから仕方がない。
町に働きに行く事も考えたけど、母さんを一人残していくのはやはり抵抗があって、決心が着かなかった。
ライアンの家は両親が揃ってるけど、それでもやっぱり町に行く事は不安だって言って村に残ってる。
ふがいないかもしれないけど、僕達はこの小さな村で生まれ、この村で育ったし、ここが大好きだから、きっと一生ここを離れることは出来ないと思ってる。
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