「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
014:僕は手を振った



(良い気分だ…)



母さんはまだ眠っている。
まだ夜明けだというのに、山のひんやりとした空気のせいなのか、僕はえらく早くに目が覚めてしまった。


丘の上に腰を降ろし、少しずつ顔をのぞかせ始めた太陽を眺めていた。
太陽の動きと共に、空が色が変えていく…



「あ、あれ…!?」



なにかおかしなものが見えた気がして、僕は立ちあがった。



(……なんだ、鳥か……)



鷹のような大きな鳥に僕は手を振った。



「シンファ…早起きなんて珍しいわね。」

「あ、母さん……なんだかわからないけど、今日は早くに目が覚めたんだ。」

「家では、私が起こさないと起きられないのにおかしなものね。」

「野宿には慣れた筈だったんだけどなぁ…」

「村に着くまでにはもっと慣れるわよ。
あ……シンファ、背中が草だらけじゃない。」

母さんは僕の背中をぱんぱんと叩いてくれた。
僕はもう立派な大人だっていうのに、母さんはまだこんな風に僕のことを子供扱いする。
やれやれと思いながらも、そういやな気もしない。
いくつになっても、僕は母さんの息子で、母さんは僕の母親だってことか……



「なぁに、シンファ…
思い出し笑い?」

「そうじゃないよ。
ただ、あんまり綺麗な夜明けだから…ちょっと嬉しくなっただけ。」

本当のことは言い辛いから、僕はそんなことを言って誤魔化した。



「……そうね。
本当に綺麗な夜明け……
早起きした甲斐があったわね。」

僕達は並んで空を見上げた。
さっきの鳥はもうどこかに飛んで行ってしまって、どこにも見えない。



「母さんの故郷へはまだずいぶんかかるんだよね?」

「まぁね…でも、もう半分以上は進んだわ。
あと三分の一くらいかしら?」

「……空が飛べたら、もっとずっと早くに着けるだろうにね。」

「あいにく、私にもあなたにも翼がないんですもの。
歩くしかないわね。
さ、とにかく、何か食べましょう!
今日も精一杯歩けるようにね。」

母さんは僕の背中を優しく叩き、にっこりと微笑んだ。
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