世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話

「でも、大学は自由だったよ」

 そう言うと、彼が私を抱きしめながら、くすくすと笑った。

「大学生で彼氏がいて、バージンってありえねーだろ?」

 私が固まったのを見て、彼は私を抱きしめる手をゆるめ、前側に回り込んできた。

「え? 何? もしかして、付き合ってたのって、大学生ん時!?」

「大学生って言うか、高校生の終わりから」

 彼が「まじかよ」って呟いた。
 何よ、失礼ね。ほっといてよ。そう思ったけど、大学生で彼氏がいてプラトニックなままってのが、一般的じゃないってのは私にも分かる。実のところ、さすがの私も普通じゃないよねとは思っていた。
 でも、お互いに初めてのお付き合い、お互いに超奥手だったんだもの。奥手同士のお付き合いだと、そういう事もあるでしょう? ってね、私、他に経験ないから分からないんだけどさ。
 だけど、何人もの女性とお付き合いした(に違いない)経験豊富な彼とは、割とスムーズに事に至ったもの。やっぱりどちらかが積極的じゃないと、こう言うのって進まないものじゃない? なんて事をほっぺた膨らませながら考えていると、彼は私の髪を片手にもてあそびながら聞いてきた。

「ね、相手、何歳?」

「6つ上の大学院生」

「うっわ。何それ」

「ん? なあに?」

「もう社会人になろうかと言う年で、女子高生と付き合うか!? 犯罪だろ!?」

 それって、ただのヤキモチ? それとも、一般論?
 思わず、まじまじと見返すと、彼はばつが悪そうに目をそらせた。

「もしかして、40前で24のさくらと付き合ってる方が犯罪?」

 急にシュンとして私を見る彼がやけに可愛く感じられて、愛しかった。

< 18 / 23 >

この作品をシェア

pagetop