♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
「礼士先輩は、あのショッキングな場面をみた後、驚きの余り気絶したから、後の事は知らないでしょうけれど、あの雪野恵さんが、激しく取り乱した過程までは知っているでしょ?」

「そ、そうらしいね。気絶だなんてお恥ずかしい。

…ああ、勿論。

恵さんが、自分の自画像に赤い絵の具が垂れた事によって、過去のトラウマがフラッシュバックして…」

「あの時は見る事は出来なかったけれど、あの時、恵さんの取り巻きが、恵さんが果物ナイフを飛りだした時、ものすごく楽しみな表情をしていた。

だから恐らく、輝きの魔術師と呼ばれる恵さんの絵のテクニックには、その果物ナイフが使われているんでしょう。

そして、小谷静の共犯者である京子と言う人は、演劇部員でもあり、美術部員でもある。

さらにあのマジックナイフ、見た目は一般的な果物ナイフに非常に近い…

…何かの拍子に、恵さんのナイフとそのナイフがすり替わったりでもすれば、今恵さんが製作中の作品、『金色の天使』の運命は…」

そこまで話した春子は、急に口に手を当て、吐きたくなる様な不快感を抑えた。

その様子を見た礼士も、春子が言わんとする事を理解し、不快な表情を浮かべこう言った。

「卑怯だな…自分は直接手を下さず、他人を使って罠を張り、絵を壊すのは恵さん自身にやらせる。

それも、本人がもう思い出したくもない、過去のトラウマを利用して!




…ハルちゃん、行こう!」

そう言って、礼士は春子の右手をとって、廊下を走り出した。

「せせ、先輩!どこに?」
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