教室で愛を叫ぶ








ローファーを脱いで父のいるらしいリビングに行く。












「お父さーん?」











父は想像通りソファーに座って、テレビを見ていた。









「おぉ、美海お帰り」








久しぶりに見た父の姿に自然と笑みがこぼれる。








私は大のお父さんっ子だ。









めちゃくちゃ優しいし、おじさんの歳なのに若々しいし、なにより物凄いイケメン。










ちなみに、私の初恋は当然のようにお父さんだった。











中学生までお父さんのお嫁さんになるのは私だとほざいていた。









当たり前のように大きくなれば母より私を選んでくれると無駄な自信すら持っていたし。










今も馬鹿だけど、さらに馬鹿だった私の可愛い子供時代。










でも断じてファザコンではないと信じている。





 



あの時の私はただ馬鹿だっただけだ。











………あれ。











これだけ自分のことを馬鹿馬鹿思うと悲しくなってきた。











自覚をしてないのはそれはそれで痛いけど、自分の事を馬鹿と自覚していても辛いものは辛いのだ。










ここのままじゃダメだと思い気を取り直して、荷物を床に置き、父の隣に腰掛ける。












「お父さん、今日は早いんだね!」










父が帰ってくるのはいつも深夜だし、帰ってこない日だってある。











「今日は希妃が帰ってくるからな」










嬉しそうに笑って私の頭を撫でる父に、笑みを漏らした。










…………そっか。










なんだ。











希妃の、お姉ちゃんのためか。











「……お姉ちゃんが帰ってくるの久しぶりだもんね」











私は、笑った。












「今日のために、数週間前から無理に仕事の調整したからな」












柔らかに笑う父に、また私もただ笑みを返した。










足に力を入れてぐっと立ち上がる。










「お父さん。私、たぶん今日夏穂の家に泊まって家に帰んないと思う」










ただ驚いた顔をしているだけの父を置き去りにし、私は二階にある自分の部屋へ向かった。











私は、お母さんよりお父さんが好きだ。









お母さんは私よりお姉ちゃんの方が好きだ。








お父さんはお姉ちゃんより私の方を大事にしてくれていたはずなのに。









お姉ちゃんが医大に行ってからはお姉ちゃんばかり気にかけている。








つまり、私が小学生や中学生のころから私よりも大学生の姉に注意を向けていたってこと。










一斗もお姉ちゃんを好きになった。











…………私は、お姉ちゃんを僻んでいるのだろうか。











決して美人とは言えないけど、素朴な可愛さを持っている姉。










私みたいな顔だけの女とは違うのだろう。










私は両親に似た顔を持っているのに、両親は顔の似ていない希妃ばかりを気にかける。










そう言えば……いくら制服のスカートを短くしても、髪を染めても、テストで赤点を取っても、夜遊びしても、怒ってくれたのは一斗だけだった。











なんだか笑えた。









希妃が私みたいな格好をすれば、希妃には注意するくせに。











「なにくだらない嫉妬してんだか」









そうポツリと呟いて、バサリと制服を脱いだ。









待ち合わせの時間まで、あと少し。


















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