恋愛応援部

2

廊下を歩く後姿に心でゆるんでいた何かがピント真っ直ぐ前を向く。
それは私の大好きな彼だった。
見ないように、見つかれないようにと慌ててその場を立とうとした。
すれちがう瞬間は驚くほど緊張する。
緊張というよりもどくどくと鳴る心臓の音が耳元で聞いているかの様に体全体に
伝わってくる感覚に似ていた。
私がその中気配を消して彼の前を通り過ぎるというのは無理な話であった。
「勘月先輩??」
車椅子をおしていた彼が私をじっと見つめているのが視線からわかった。
「天咲くんじゃない!」
私の気持ちが張れないようにと、平然を装った。
天咲 菊荼 私が思いを寄せる人であった。
「きっちゃんこの人は?」
車椅子の少女が優しい声でそう言った。
「勘月さん、俺の部活マネージャーさん」
天辿君の言うとおり私は野球部のマネージャーであった。
もっと私の他にマネージャーは四人いるからもさぼりまくりなのだが。
「そうなんだ……きっちゃんがいつもお世話になています」
「いえいえーそんなー!」
無理に明るくふるまった。
本当は今すぐにでも、この場を放れたかった。
「私は、九六 葉実 といいます」
彼女の笑った顔が私には苦痛だった。
それは天幸君が彼女にやけに優しいからだった。
天幸君が彼女の事をどう思っているかなんて私にはわからなかった。
「九六さん……よろしくね!」
「宜しくお願いします」
彼女は手探りで私の手を掴んだ。
そう彼女は目が見えないのだ。
そのためか天咲君は彼女につきっきりなのだ。
はきり言って私は彼女にシットしていた。
情けないものだ、シットなんて……
でも自分の気持ちはごまかせはしない、私は情けないと思いながらも、仕方ない
という気持ちも持ち合わせていた。
「それじゃ。」
天幸君はそういって私の横を通り抜けた。
私は天幸君を目で追いながらも、築かれるのを恐れていた。
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