迷宮ラブトラップ
正月も過ぎて、お互い忙しく過ごしてはいたが、会いたい気持ちが募っていた。

゛早く会いたいな゛

遼也も同じ気持ちでいるのか、年が明けてから遼也から積極的なメールが何度か来た。

自分からは言わないと言っていた遼也がそんなメールをくれるようになるとは。

少しは遼也の気持ちが自分にあるのだと自惚れても良いのだろうか…



そんな矢先、瑞香の夫が背中が痛くなって動けなくなった。
連れていくのは気まずいと思いつつも、施術者として一番信頼のおける遼也の所へ瑞香は夫を連れて行った。


「いつから痛みが出ましたか?
そうすると…三日前くらいに何かしましたか?
体を丸めるような…」

真面目に問診をする遼也の姿に、夫の後ろに控えながらも瑞香は思わず見とれてしまった。

そして遼也の手元には瑞香の贈ったボールペン。

使ってくれていることが嬉しくて、こっそり瑞香は笑みをもらした。


夫が横になり診てもらうのを椅子に座って眺めていた。
遼也と夫の話の中で、夫が厄年という話題になると、
遼也は瑞香に机の後の棚にあるお香を焚くよう指示をした。

「あまちゃ香?」

「そう。淡路島で作られているお香なんだけどね、お客さんで寝るときに片手が引っ張られる気がするって言っていた人にわけてあげたら、手を引っ張られなくなったって言う曰く付きのお香。」

火を着けるとふわりとお香の香りが漂った。
匂い系は得意ではない瑞香だったが、この香の香りは平気だった。

「時々焚くんだよ。」

そう言われてみると確かに、診察室にわずかに香っていた匂いと一緒だった。



「しかし、ひどいね…」

夫の身体を診ながら遼也は苦笑する。
夫の身体の状態は思っていた以上に悪かった様で、1つ1つ説明をしてくれた。

「頭が全然降りてこない。本当ならここの骨がもう少しまっすぐになってなきゃいけないんだけど…」

「へぇ?そうなんですね。」

同じ医療関係者としてはどのような状態なのかが気になり、自然と瑞香は遼也の側に寄り眺め出した。
すると、施術をしながら遼也は夫に見えない所で自身の足を瑞香の足へと添わせた。

遼也の温もりが瑞香へと伝わってくる。


夫がいるのに…


けれど瑞香はその温もりがたまらなく心地よく感じ、遼也が体勢を変えるまで、二人は足をくっつけあっていた。


何とか夫が動けるようになり、瑞香は礼を言って診療所を後にした。
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