機械人形は、ひとり、語る。(短編)
それは、いつもと変わらない、静寂な朝の出来事だった。
ドレスの裾は朝露に少し、濡れていて。
朝の光に反射して、きらきら。
朝露に濡れた、ラベンダーを、一房、摘んで。
震えながら。
彼の口元に、よせた。
するりと、水滴が彼の唇を濡らした。
こくり、彼の喉元がかろうじて動いて。
うれしい。
だって、彼が薄く微笑んでいる。
うっすらと目を開けて、私を見ている。
だから、私もつられて微笑んでしまう。

「…ユートピア」

だけど、それが、彼の最初で最後の言葉だった。


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