CHECKMATE


「それでは、話を戻しますね」

再びプロジェクターで映し出された画像の前に立った夏桜。
先ほどの数字を示しながら説明を続けた。

「このAとBの後にある数字は受精卵のグレードを詳細化したもので、A2よりA1の方が状態がいいものを示します。また、/1、/2というのは数量です。したがって、このご夫婦の受精卵は、A2のものが1個、B1のものが2個凍結してあることを意味しています」
「じゃあ、その『Dis確認済み』というのは?」
「これは、ご夫婦の了承済みの廃棄処分を意味します」
「廃棄処分?」
「はい。凍結保存は3年、5年といった一定期間の契約に基づいて保存されます。その保存料金は病院にもよりますが、結構高額です。良心的な病院であっても1個当たりの凍結料の他に、年間維持費を取る病院も少なくありません。このご夫婦の場合3個凍結していたことになっているので、良心的な金額にしてみても、初年度は20~30万はかかるでしょうね」
「えぇっ?!そんなにかかるんですか?」

夏桜の言葉に驚愕する剣持。

「そうですね、あくまでも……という金額ですけど。凍結は受精卵だけでなく、卵子や精子も凍結出来るので、それぞれに料金が設定されているはずです」

夏桜以外男性という事もあり、普段は中々触れることの出来ない世界が垣間見えた瞬間だった。

「問題は、このご夫婦のカルテが、何故別ファイルに入っていたのかという事です。これは私の推測ですが、廃棄を了承済みであったとしても、実際は廃棄されず、密売されているとしたら……?」

夏桜の言葉にその場にいる誰もが、一瞬唖然とした。

「そんなこと、あっちゃ駄目に決まってるじゃないですかっ!!」

緊迫した室内に剣持の一際大きな声が響き渡った。
それに賛同するように水島や神保は何度も頷く。

「これで、あの婦人科のカラクリが分かっただろ?難しい問題ではあるが、決して許されない行為だという事は明白だ」

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