CHECKMATE


不妊治療専門の婦人科は独特の雰囲気がある。

毎日のように待合室で顔を合わせる為、患者同士仲良くなることも少なくない。
お互いに同じ目標を持っている同志だからこそ、通じ合えるものがある。

会話の内容も独特で、『何単位?』『何日目?』といった感じに注射に関することを話したり。
『最近、何試してる?』『私はマカとナッツ類かな~』などといった感じに不妊に効く物の情報交換であったり。
少しでも妊娠出来る確率を上げる為、あらゆる手段を試そうと皆切実だ。

そういった患者たちがいる一方で、晴れて妊娠出来たが、流産の恐れもあり、婦人科を中々卒業出来ない人も多い。
妊娠出来たからといって、必ずしも手放しで喜べる訳ではない。
そういった独特の雰囲気が常に漂っている。

少しふっくらとしたお腹を愛おしそうに撫でながら診察室から出て来た女性。
彼女は診察室のドアを閉める際に、満面の笑顔で告げた。
『大変お世話になりました』と。

辛い不妊治療にピリオドを打ち、次なるステップに進むようだ。
そんな彼女を待合室にいる患者らは、誰しも羨望の眼差しを向ける。
『いつかは自分もあーなるのだ!』と心に誓いながら。

そんな雰囲気はよくある光景で。
病院の門を叩くのと同じように、卒業していく人もいる。

けれどそんな雰囲気の中、羨ましそうに見届けるのではなく、無意識に視線を背ける女性がいた。

それが、ジョアンだ。
彼女はいつでも俯き加減で、誰とも目を合わせようとしない。
今どき外国国籍の女性が通院するのは珍しくないが、彼女はかなり異質な雰囲気がした。

チーム『S』に加わって、すっかり捜査になれた夏桜は、刑事の勘のようなものが働いていた。

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