CHECKMATE


ジョアンは口数が少ないタイプで、感情もあまり豊かな方ではない。
それでも、彼女なりの意思表示はしてくれている。
そんな彼女が自分と重なるようで、勝手に親近感が湧いていた。

夏桜はそんな彼女をランチに誘う。
ジョアンは僅かに嬉しそうな表情を覗かせ、いつも小さく頷く。

最初から打ち解けていた訳ではない。
根気よく声掛けし、日常会話が出来るまでになったのだ。

「ナオサン」
「ん?」
「キョウハ、ワタシガ pay(支払う)………シマスネ」
「フフッ、Don't worry about me(私の事は気にしないで)大した額じゃないのに……」
「ソレハ、イケナイ………デスネ」

ジョアンは片言の日本語で一生懸命話そうとしてくれる。
知人から教わっているらしい。
2人は英語と日本語のミックスで会話する。


病院から出た2人は、張り込み用に借りているテナントビルの1階にあるカフェへと向かう。
2人がランチをするのは、今日で4回目。
就労ビザで来日しているというジョアンの為に、少しでも負担を掛けさせまいとこれまで夏桜が支払っていた。
おごりだと言えば、大概の外国人は喜ぶのだが、ジョアンは違った。

いつでも誰にでも警戒しているような素振りを見せる。
そんな相手に、もともと内気な性格の夏桜は必死だった。

だって、彼女は…………。

***

「お疲れ様です」
「お疲れ様」
「どうだった?成果はあったのか?」
「………ん、まぁね」

カフェの前でジョアンと別れた夏桜は、その足で張り込み用のテナントへと向かった。
部屋には千葉と倉賀野がいた。
他のメンバーは聞き込み調査に出ているという。

夏桜はバッグを机の上に置き、カーディガンの袖を捲った。

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